2013-12-31

外国人が7割、横浜のとある公立小の紹介記事について

大学の学士論文では移民とその子どもたちの市民権と教育について書いた僕としては、ぜひ紹介しておきたい記事があります。

日経ビジネスオンラインに掲載された「外国人が7割、驚愕の公立小が横浜にあった 日本なのに日本人がマイノリティー」という記事です。


東京・新宿から電車で約1時間。《中略》
数々のアジア食品や中華食材の店、中国人をあえて募集する自動車学校の看板、街を闊歩する外国人――。ここが横浜市泉区と大和市にまたがる、神奈川県営いちょう団地。合計79棟、約3600戸の戸数のうち約2割が外国人とされている、知る人ぞ知る日本の超国際タウンだ。


神奈川県営いちょう団地

日経ビジネスオンライン《かっこ》は引用者


この記事の副題である「日本なのに日本人がマイノリティー」はきたる日本の未来でしょう。本文中で紹介されているいちょう小の菊池教諭はそれを「数多くの国籍出身者が通うこの小学校は、未来の日本、将来の日本企業の縮図かもしれません」と述べています。


まずこの記事で紹介されているいちょう小の現状を引用してみます。


現在のいちょう小には10カ国の国籍の児童が通い、全児童の7割超が外国籍か外国をルーツとする(日本に帰化)児童なのだという。日本の公立小学校にも関わらず、ここでは日本人が全児童の3割弱でマイノリティーというのが衝撃だ。

《中略》

7割超が外国系であり、児童の国籍や日本語能力もバラバラ。こうした特殊な事情により、公立小とはいえ、いちょう小は独自の授業形態を構築している。

重要科目である算数と国語は、日本語レベルに合わせた少人数教育を徹底しているのだ。各学年の担任のほかに、算数と国語には補助教師が付き、国語については、国際教室担当の教師も加わる。15~20人程度のクラスは、科目により最大4グループに分けられ、教室も別にして日本語レベルと理解度に合わせた少人数教育が行われる。

クラス当たりの児童数が少ないとはいえ、日本語レベルの差が大きい児童が集うこの学校では、一元的な授業で全員を理解させるのは到底無理。数年前から、個別学習体制を整えた」(菊池教諭)という。取材した日は、入学して日が浅く日本語がまだ不自由なベトナム人児童2人に対し、菊池教諭が熱心に日本語を個別指導していた。



日経ビジネスオンライン《かっこ》は引用者


まず、この小学校は公立校であるというのが驚きです。「先進的」な取り組みは大学の教育学部付属などの国立や、教育課程にしばられない私立の学校であるというのが一般的な理解かもしませんが、いちょう小は横浜市立です。

これは自動車や電機メーカーなどの工場に集まった出稼ぎ労働者が住みやすいのが神奈川県の公営団地であるいちょう団地であり、その子どもたちが通える小学校がいちょう小だったということでしょう。

こういった事情から少人数教育などの取り組みが進められてきたというのはリアルさがあります。


そしてこの小学校が地域で果たした役割がまた素晴らしいのです。


 いちょう小での、この手厚い教育の効果は、外国人児童たちの学力や日本語力の向上だけにとどまらない。日本の教育を受けた子供たちを通じて、外国人の親たちが日本の文化やルールを学ぶことにつながっている。このため、いちょう小の存在は、団地内における日本人と外国人居住者の軋轢を減らし、平和的共存の礎となってきた。

「まず外国人の子供に日本の教育を受けさせると、日本の常識を身に付ける。すると家の中で子供が親に、ゴミの分別や夜間に騒がないなど、細かい日本のルールを守るように呼びかけるようになる」と、菊池教諭は話す。

いちょう団地連合自治会の栗原正行会長もこう証言する。「いちょう団地で日本人と外国人とのトラブルが減った大きな要因の一つは、いちょう小での教育のおかげ。深夜のカラオケや麻雀パイの音、田んぼでのたき火パーティーなど、昔はいろいろ問題が起こった。我々が直接苦情を言っても聞く耳を持たない人でも、子供が親に『お父さん、ここは日本なんだ。恥ずかしいからやめてよ』と言ってくれると、大人も日本のルールを守るようになっていった」。



子どもたちが親に日本の文化をフィードバックするという事例が紹介されています。「子はかすがい」とはよくいったものです。子どもたちは地域と移民とのかすがいにもなったのです。

実は社会学の研究では移民に限らず小学校が地域において果たす役割の大きさは従来より指摘されてきていました。そしていちょう小も、その例外ではなかったのです。


さらに、いちょう小が地域において果たしている役割が決して小さくないことがうかがい知れる事例が紹介されています。


 小学校やいちょう団地を取材しているうちに、時間は夜になっていた。すると、いちょう小は、また違った“顔”を見せ始める。児童の帰宅後、今度は外国人の大人や中高生が、小学校内のコミュニティーハウスに続々と集まり始めたからだ。

これから始まるのが「夜の日本語教室」。この日本語教室は、毎週水曜と土曜の19時~20時40分まで、いちょう小のコミュニティーハウスで開催されている。

その日は、総勢50人程度の外国人が集まっていた。日本語の習得レベルや国籍ごとに少人数のグループに分けられ、各グループに日本語講師がつく。日本語の講師役を務めるのは、みなボランティア。大学生から、会社を引退した高齢者まで、講師陣の顔ぶれも多様だ。中でも高齢者の日本語講師が、孫のように年が離れたアジアの若者に、生き生きと日本語を教えている姿が印象的だった。







夜の日本語教室に通う、中国・ハルピン出身の中国人男性は取材に対して、こうコメントした。「無料で日本語を教えてもらえて、外国人や日本人の友達もできる。この勉強会は非常にありがたい」。この男性は、昼は近隣のメーカー工場で溶接工として勤務し、水曜と土曜の夜はこの教室に参加し、日本語と日本文化の理解に努める。

この日本語教室は、いちょう団地の外国人住人を支援する団体「多文化まちづくり工房」が主催する。「合理的な社会システムが発達した日本では、まずは日本語さえ出来れば何とか暮らしていける。日本や近隣地域になじむには日本語を使えるようにするのが、最も手っ取り早い」(多文化まちづくり工房の早川秀樹代表)。こうした考えに基づき、同氏は2000年に団体を設立する前から、ボランティアの日本語教室や、小中学校生を対象にした補習授業を、この地で草の根的に提供し続けてきた。ただ、運営はラクではない。「日本語教室は盛況で手が足りない。日本語講師をしてくれるボランティアを、随時募集している状況」と早川代表は話す。



日本語と日本文化を学ぼうとする意欲のある外国人を受け入れる場がある地域というのはどれほどあるのでしょうか。

しかしそんな児童や教員・地域住民ら関係者の努力の結晶ともいえるいちょう小は、統合によりなくなってしまうそうです。


 いちょう団地の平和的共存の要となってきたいちょう小は2014年4月、学区が隣接する飯田北小学校へ統合されるのだという。

飯田北小も外国人比率が2割程度とされ、通常の小学校より外国人が多い。が、「現在のいちょう小で実施しているような、手厚いグループ指導などは難しくなるかもしれない」(いちょう小の菊池教諭)。というのも、昔はマンモス校だったいちょう小は、多数の空き教室を持つ。児童数の減少で教室数に余裕があるため、日本語レベルに応じた少人数教育を教室を分けて実施できるわけだ。

しかし「飯田北小の教室数は、いちょう小の3分の2程度であるため、同じ指導体制にするには教室が足りない可能性がある」(菊池教諭)。いちょう小には、その国の文化芸能を学ぶ目的で、各国の郷土品を集めた教室などもあり、やはり多文化教育や個別指導の面で、充実しているのは間違いない。





教室数が多いいちょう小を存続校にして2つの小学校を統合すれば良いのではないかと思えるが、地元住民の配慮など数々の事情が絡み、そう単純にはいかないのだという。

いちょう団地の外国人住人が日本社会になじむため、重要な役割を果たしてきたいちょう小。「この場所に小学校がなくなることで、団地や周辺地域全体にどのような影響が出てくるのか、多少の不安はある」と、団地の日本人居住者の一人は打ち明ける。

いちょう団地は、日本だけでなく世界的に見ても珍しい、多民族が平和的に共存できている貴重な事例。人口減少が続く日本が、仮に、移民を多く受け入れる政策を採用することにでもなれば、参考にすべき先進地域だと考えられるだけに、いちょう小が統合でなくなるのは残念に思える。これまでうまく回ってきた地域の歯車がギクシャクしてくるようであれば、大きな損失となる。



なんということでしょうか。地域の「かすがい」となり欠くべからざる存在であった小学校が廃校になるというのです。

文科省主導でモデル地域が設定される取り組みは全国に数多くありますが、これほどリアリティと実績を有する「モデル」はないはずなのではないかと反感を抱いてしまいます。

いちょう小の廃校が、貴重な多民族の共存を壊したモデルならないことを祈るばかりです。


参考になるリンク



最後に、この地区を見出し取材を行ってくださった宗像誠之記者に謝意を表します。