2017-02-22

発禁処分で話題の『日本会議の研究』を読んでみた




『日本会議の研究』を読了した。大変興味深かったので簡単に読後の感想を記載しておく。


話題のノンフィクション


本書が世間の耳目を集めたのは東京地裁での「発禁処分」だ。

改憲運動などに取り組む団体を扱ったノンフィクション「日本会議の研究」(菅野完著・扶桑社)をめぐり、東京地裁が名誉毀損(きそん)を理由に販売差し止めを命じた仮処分について、日本書籍出版協会(理事長・相賀昌宏小学館社長)と日本雑誌協会(理事長・鹿谷史明ダイヤモンド社会長)は27日、連名の抗議声明を発表した。

一連のニュースは本書の読者であれば、著者が丹念に追った「一群の人々」の暗躍を想像する。暗躍があったとすれば皮肉な結果だが、この販売差し止めのニュースを契機として多くの人が本書を認識するに至った。私も販売差し止めを機に本書を手に取った1人である。

断っておきたいのは本書は単なる話題書ではなく、ノンフィクションとして楽しめる本であるという点だ。個人をフォーカスしながら大きな構想で歴史を手広く扱っていく手法は猪瀬直樹の著作を彷彿させる。

なかでも特に楽しめるのは、機関誌や書籍の奥付け、そして大会の席順からターゲットの組織を理解しようとするアプローチである。これは著者がいうように共産主義体制国家の戦後検証に通ずるところがあり興味をそそられる。

考えてみれば新書でこれだけ濃いノンフィクションが読めるのは素晴らしくお得である。


「最初の仕事」元号法制化


日本会議は、事務作業のまめさといういかにも日本のステレオタイプめいた努力を礎として発展してきたのは本書が明らかにしているところである。しかし、彼らの鮮烈なデビューには大変驚かされた。

いまだに元号がお役所の書類のプライマリー表記となっていることの背景に彼らのデビュー戦が関わっていたのだ。詳しくは、本書を読んでいただきたい。


‪現在進行している事態なのに・・・


‪読み進めているうちに1つの疑問がうかんだ。それは、「なぜこれらは現在進行している事態のはずなのにそれほど危機感がわかないのか」である。先述したように本書はある種ミステリー小説のように楽しめながら読めてしまう特性を有している。

本書はそれへの回答も用意している。1つは現在の日本会議の影響力は意外と少数の人々の努力の賜物とも呼ぶことができるからである。そしてもう1つ、関係者の高齢化と次世代への継承がそれほどうまくいっていないようにも読めることも大きい。

ただし、学生だった彼らを最初に奮起させたきっかけが一般学生の無関心ぶりだったことも忘れずにおきたい。あくまでも「一群の人々」が特定の思想信条を持っていることには何ら問題ないという前提はあるものの、彼らに光を当てることには意義があるだろう。


おすすめできる理由


私個人として新書なんかを読むときは新しい情報の入力によって自分のなかにあった問題意識と解決に向けた連鎖が1つでも起きるか、もしくは新たに問題意識が芽生えでもすれば「当たり」と判断しているが、この本はそういう意味できっと多くの読者にとって「当たり」となってくれることは請け負える。

また、先ほどの話ではないが、本書には現政権を取り巻く人々の進行中の話題の背景なども豊富に取り上げられているため、それらと照らし合わせながら日ごろ流れるニュースを見ることができるようになるのも本書がもたらしてくれる便益の1つである。

―ということで、とりとめなく感想を述べてきたが、本書はぜひおすすめしたいノンフィクション小説である。


内容についての備忘録


その他、私が興味がひかれた事柄や特筆したい点を箇条書きで記しておく。

  • 思いがけない収穫は「学生運動をやっていた人はどこにいったのか」という私の長年の疑問に本書が1つの答えを用意してくれたことだ。
  • 「GHQに与えられた憲法だから」という理由で、憲法を解釈によって骨抜きにする、また、中身の是非を問わず改憲すること自体に意義を見出している人が少なからずいる。
  • 個人的には「はじめに」で筆者の立ち位置などのエクスキューズが多く、若干読む気をそがれた。しかし、本文は最終章でラスボスがでてクライマックスをむかえるまで終始興味深く読み進められたので、くれぐれも本書を購入し読み始められた方は「はじめに」にそそられないからといって読むのをやめてしまわぬよう注意されたい。