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2012-09-21

海外にスケールしなくてもアナログ斜陽産業にITで参入って面白いのではないかという話

最近、不動産会社を周っていて賃貸業界のアナログっぷりには驚かされた。空室確認は電話、内覧の依頼にはFAX。そこでビジネスモデルを変えて成功している(普通の不動産会社よりN*10倍くらい設備投資できる資本があるらしい)経営者の人にも会ったんだけど、やはり限界を感じていると。こういう業界にこそITの力を以ってしてですね…という想像を掻き立てられたので下記をどうぞ。





■ 賃貸業界の市場規模は6.5兆円

まず、市場規模を見てみます。斜陽産業でも市場規模さえ大きければシェアを獲得することによって大きな利潤を見込めますよね。
最近話題になった市場規模マップ(上の画像)で見ても不動産業界全体の市場規模って36.6兆円(2010年)もあるんです。これは面白い、さらに細かく見てみます。賃貸業界の市場規模を総務省の家計調査報告(2011年度)を使って推測。それによると、
  • 家賃地代への平均支出は総世帯で12,609円、勤労世帯で18,301円(ちなみに家賃・地代を支払っている世帯の割合は総世帯のうち26.3%、これを勤労世帯に限ると37.8%)
  • 平均世帯人員は2.47人(つまり日本には5170万世帯)

以上より、(127 720 000 / 2.47) * 12 609 = 6.51992502 × 10の11乗 ということで6兆5千億円。市場規模マップで比較すると、賃貸業界は鉄道・百貨店・旅行・広告業界よりも大きいということになります。介護業界の次に大きいということです。

※賃貸大手レオパレス21の資料も見てみましたが、どうやらそれくらいの模様(以下、引用文中「普通世帯」というのが総務省の統計でいうところの「勤労世帯」でしょうか)。
 平成20年(2008年)の「住宅・土地統計調査」(総務省統計局)によれば、日本全国の普通世帯4,980万世帯のうち借家に居住する世帯は1,777万世帯。普通世帯の35.7%は賃貸住宅に住んでいる計算になります。
個人投資家の皆様へ|市場を知る,レオパレス21を知る:市場規模|レオパレス21:レオパレス21のビジネスモデルや最近の業績についてわかりやすくご説明いたします。


■ アナログ業界にITで参入

冒頭でも書きましたが賃貸業界のアナログっぷりってすごいわけですよ。僕は上京して寮→シェアハウスと一人暮らしをしてこなかったので縁がなかったわけですが、賃貸借りようとしている人って皆こんな面倒くさい手順踏んでるんですか。こういう業界にこそITって必要じゃなかったんですか。冒頭の経営者は利益構造を変えただけでお客さんには喜んで貰えて「忙しくさせてもらってる」そうです(これは「もう儲かってしゃーないわ」の意?)。
当たり前ですがITって別にスマートホンのアプリとかに限った話ではないですよね。既存の業界のどうしようもなく面倒くさいこと(時間やお金がかかってしまう)とかを改善する使命ってあるはず。これはITに限らずビジネスってそういうものじゃんっていうこと。社会に価値を提供して、その対価を得る。今、こんなに面倒くさいっていうことは、日本の賃貸業界には、その価値を提供する企業がないということなんですよ。

なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか(祥伝社新書228)
『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』という本がありますが、この本に書いてあることって「町の不動産屋のおじさんは大きなお金が動く案件にニコニコ擦り寄って人付き合いでねじ込んでもらってその上澄みをすすって生きている」っていうことです。不動産業界ってそういう業界なんです。全然スマートじゃない。




■ SUUMOとか先行研究してみる

OK, 賃貸業界にITで参入するのが面白いってことは分かった。でもネタは?
まず業界を知ることから。この1週間くらい不動産会社を周ることで業界の代表的なビジネスモデルを把握してみました(上の図です)。ピンク文字が僕たち借り手がフィーを払う金額と払う相手です。そしてグリーンが法人の間でやり取りされている資金の流れ。一応、物件の契約のフローを具体的に示します。
  1. 僕がSUUMOで気に入った物件を問い合わせる
  2. 仲介業者から物件の詳細や内覧などのため「一度ご来店下さい」と連絡が来る
  3. 来店して仲介業者に条件を伝えて他の物件なども探してみる(ここで使われるのがレインズ
  4. 内覧などをして気に入った物件に申し込んで仮押さえしてもらう(ちなみにここで「家賃1か月分程度の申込金が必要」と仲介業者に言われるかもしれませんが宅建業法上重要事項説明を読まずに振込はしないので注意)
  5. 審査が通ると本契約

フローで登場したWEBサービスは2種類です。
  • レインズ: レインズは主にオーナーから(清掃など日々の管理業務の他に)借り手の募集の依頼も受けている管理会社が掲載する情報サイトです。仲介業者はこれを見て来店した借り手に紹介します。借り手は直接このサイトは見れません。
  • SUUMOなど: SUUMOやらホームズやらの僕たちが普段見る賃貸情報サイトはここにあたります。仲介業者はレインズに載っている物件から良さそうな物件を1000円/件ほどでこういったサイトに掲載依頼をします。ただ、アットホームは消費者向け以外にも、独自版のレインズのような図面配布サービスもしています。

なぜレインズは消費者向けに直接公開していないのか分かりませんが、レインズは不動産流通機構会員向けの公益財団法人であるため消費者向けには情報を公開しておらず(ADJ: Sep 24, 2012)、賃貸業界はこういうビジネスモデルになっています。これを見ているとSUUMOは仲介業者が消費者に来店してもらうための餌だということが分かりますね。
そして僕が冒頭で愚痴った「空室確認は電話、内覧の依頼にはFAX」というのはこのフローの3にあたります。詳しく書くと、レインズは借り手を募集するだけのサービスなので、現在空室かどうか、または申し込みが先に入っているかどうかは直接管理会社にまで問い合わせしないと分かりません。そして、空いていることが分かってはじめて、仲介業者は管理会社に名刺などをFAXして鍵を受け取り内覧へ行きます。どうでしょう。
  • 仲介業者とSUUMO要らない!(特に仲介業者は管理会社からのフィーと借り手からのフィーを2重に受け取っていてハイコスト)
  • 空室と申し込みの確認は自動化できるだろ!


■ ということで日本の賃貸業界に必要なWEBサービスは以下の通りです

  1. 管理会社から借り手募集を募って図面を用意する(=レインズ。仲介業者向け)
  2. 管理会社が空室と申し込みの状況を入力できる(今までなかった。管理会社向け)
  3. 空室や申し込みの状況がリアルタイムに把握できる賃貸情報サイト(=SUUMOなど。エンドユーザー向け)

これによって借り手に提供できる価値をあげると、家賃10万円だったとすれば仲介業者の手数料分や管理会社からの広告キックバック料分など約20万円の削減と、仲介業者に足を運ぶ時間の削減です。これは現在でも熱心なオーナーが直接紹介している物件(かなり稀少)や、知り合いが住んでいるなどの理由で間取りが分かる気に入った物件があって、そこの現地の案内を見つけて管理会社に直接コンタクトできた場合など(かなり煩雑)でも実現できます。しかし、このWEBサービスがあれば同等の価値をより少ない手間で実現できます。
また、このWEBサービスは既存の仲介業者にとっては脅威ですが、管理会社への問い合わせなどの費用削減効果が見込まれます。従来通り対面での物件探しを希望する消費者はいるでしょうから、そういった顧客により有利な条件で物件の紹介ができるようになります。そしてもちろん、仲介業者から鬼のように電話がかかってくる管理会社にも当WEBサービスの利用によって人件費削減のメリットがあります。





■ ITを通じて世界をより良くしていくということ

今年2月にZOZOTOWNのスタートトゥデイが東証一部上場しましたが、良い例だと思います。ファッション業界は現在の不動産業界と同じようにアナログでした。そこに価値提供したのがスタートトゥデイ。
IT業界の人間はともするとGoogle, Amazon, Facebookなど最先端に目を向けてしまいがちですが、別にITが活躍できるのはスマートホンのアプリやWEBサービスだけではありません。むしろ、業界に詳しい有望なパートナーさえいれば競合の少ない市場があるのではないでしょうか。いいえ、そんなことを考えなくても、「ITで価値を提供できる業界がそこにあるのだから」、「そこでなら飯を食っていけそうだから」という動機だけでは不足でしょうか。


【募集】上記で提案したWEBサービスの開発に興味のあるエンジニアの方

フリーランスなど所属は問いません。継続的にコミットできる方を募集しています。応募でなくとも気になった点などがある方は@ymkjpまで。「そういうWEBサービスがあれば絶対管理会社は買うしかない」と、営業に確信を持ち資金の目処もある業界に詳しい者を紹介できます。
// 知り合いを紹介できました(FOLLOW-UP: Sep 27, 2012)



【おまけ】総務省「家計調査報告」住宅関連こぼれ話 ― 統計とかREITとか

住宅関連に絞って「家計調査報告」を見ていると面白いですね。例えば、「土地家屋借入金」がある世帯は総世帯のうちの1.2%。少数の勝ち組ということでしょうか。ここには新たな現物投資として定着した感のあるREITは(証券化されているので)含まれなさそうですが。他にも、「土地家屋借金純減」24,160円。これは1か月あたりにいくらローンを返済しているかという話です。金額ベースで見ても借りる額より返している額の方が圧倒的に多いですね。つまり、住宅ローンを背負って新たに住宅を購入している人が減っているか、もしくは借りる額が小さくなっているのではないかと推測できます。
ちなみに、不動産管理会社に聞いたREIT関連の面白い小話でいくと、都内の港区などの一等地はやはり投資物件が多いそうです。そういった物件は借り手として有利な場合も多いです。というのも、REITの場合は証券化されているためオーナーが直接でしゃばってくることがないので「合理化」されているからです。少し仲介業者さんに行って話を聞いてみれば分かりますが、オーナーは借り手の職業や転居の理由を気にしたり、礼金などの臨時収入を喜んだり、専門の保証会社ではなく伝統的な敷金と連帯保証人による保証スキームを志向したり…とにかく不合理なことが多く、何より彼らとのやり取りにかかる手間賃がかかります。それに比べREITは法人対法人の契約になるため金額や時間面で合理的になっているはずです。