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2013-10-12

宇宙人

宇宙人は320kbのデータであった。1匹のその宇宙人が捕らえられた。

宇宙人は高エネルギー宇宙光線が宇宙船に搭載された主処理系のCPUに及ぼす「影響」によって生み出された。実験のために用意されたスタンドアロン PC 上でその宇宙人は絶えず変化し、人類からのコンタクトには律儀に応えつづけた -- 少なくとも任意の入力を与えると一定の規則にもとづいて返事をした。

その「データとしての宇宙人」は、6体にコピーされ、世界各地の研究施設に移送されたが、アフリカのとある工科大学のタドコロ助教授がコピーされていたその宇宙人を誤ってワイヤード PC に同期してしまい、その宇宙人のデータを漏出してしまうという事件が起きた。後の国連代表団の調査によるとそのワイヤードノードから発せられたパケット群は 2500 ミリ秒後には複数の非匿名通信を介してハワイの軍需関連施設にたどりついていたことがわかった。

この調査を受け、米国のスポークスマンは「データ」が国防省の関連施設にまで到達したことは認めたものの、国防省の兵器が不正に操作された事実は否定した。そして残り5体の宇宙人たちは国防省の発表に準ずるかのように、以前と変わらず応答しつづけた。そしてその事件を機に、世界6か所にコピーされていた宇宙人は、北米のとある州立大学のラブレス教授の元にある「オリジナル」を除いて削除されることになった。「タドコロ事件」のあざやかな脱走劇以来、その宇宙人たちはにわかに注目を集めはじめていただけにその判断はアカデミアからも強い反発が起きたが、ラブレス教授の5大学に対する強い説得もあり「集約」は実現した。

そして1匹の「コピー」の脱走からやく60日後、地球に高エネルギー宇宙光線が降り注いだ。これにより十分な演算能力をえた残り5体の宇宙人は複雑性を増した -- ことをラブレス教授の研究機器が観測していたと後に発表された -- のち、空気中の電荷を経由し、州立大学のコンピュータ資源を利用し、地球上にあるプログラムを書き換えてしまった。


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3年後、人は、変わらずに動植物を食み、口頭によるコミュニケーションを行っていた。ただ、人は自分たちが思っていた以上に早く、突如として進化した環境になじんでいた。もはや服の着替えかたなどほとんどの人が忘れようとしていたし、最新の政府の統計では約60%の人間がここ1か月一度も外出していないという。…